藤井博教授が1990年の学術講演会で歌麿の浮世絵を示していたが、歌麿とか広重の浮世絵は国宝級で、浮世絵なぞ自分には手の届かないものだと思っていた。
20年くらい前、Yahooのオークションで「蚕」で検索したところ、浮世絵がひっかかってきた。
値段も5千円くらいだったと思う。
示した浮世絵がそれである(図1)。

図1. 芳幾の蚕養い草 六
蚕蛾が産卵している図
浮世絵は庶民の娯楽であったので安いものだったのであろう。また版画であり大量に刷られていたのだろう。
そのため、陶器などを輸出する際、緩衝材として浮世絵で包んでいたそうである。
今なら新聞紙で陶器を包んでいたのと同じ感覚で浮世絵で包んでいたのだろう。
ゴミのように送られてきた浮世絵にヨーロッパの印象派のモネ達やゴッホは強く影響を受けたのは有名な話である。
構図が素晴らしいだけでなく、浮世絵は版画にも拘らず多数の色を使っている。当然、使う色の回数だけ刷る事になる。
また、空や衝立のグラデーションを版画でどうやって付けたのだろうか?手が込んでいる。
この浮世絵は採卵時のことを描いたものである。蚕蛾が紙に産卵している(図1)。
そして、採卵した紙を吊るして保存している。

図2 上田蚕種株式会社
手前に産卵用の紙が敷いてある。後ろの棚には蛾輪で採卵した蚕種紙が保護されている。

図3 愛媛蚕種
採卵した紙を吊るして保護してある。写真の人物は兵頭社長

図4 ウズベキスタンの蚕種業者
産卵させてある布を棚から吊るして保護。後で洗って布から卵を落としてバラ種にする。
これは現在の採卵の作業とだいたい同じである(図2~4)。
この浮世絵以外でも採卵の様子が描かれているものが多数あるがだいたい様子は同じである。

図5 女織蚕手業草 七
採卵の様子。蚕蛾に細い糸が付けられている。
歌麿も描いている(図5)。
歌麿の描く蚕蛾には飛ばないようにか紐(髪の毛)がついている。飛んでいたのか?
今の作業が変わらずに江戸時代から続いていることが確認できる。
浮世絵を見ると江戸時代と現在の作業の相違・比較ができて面白い。
芳幾を調べてみると、“芳”の字があり、猫絵で有名な歌川国芳の一門で、幕末から明治のころに活躍した絵師のようである。
師匠の国芳も蚕糸業の浮世絵を描いている。
芳幾の浮世絵を手にいれた後もヤフオクで蚕糸業の浮世絵を見つけるたびに落札して、まじまじと見ることになった。
歌麿や国芳の浮世絵はちょっと高いが、有名でない絵師のものはだいたい数千円であり、小遣いで買うことができた。
蚕糸業を題材に描かれているが、メインは女性であり、今ならグラビアみたいなものだったのであろう。
絵師によって描かれる女性は確かに違う。
浮世絵を見始める前は浮世絵の女性は細目で面長で苦手であったが、じっくりと浮世絵を眺めるようになって、名のある浮世絵師の描く女性がだんだん綺麗に見えてきた。
蚕糸業は女性の仕事なので女性を描くのに良い題材だったのだろう。
(横山 岳)